為替市場の価格決定のメカニズム

最先端の為替予想モデル

為替市場はカオスに確率的要素もあり、揺らぎは避けられない。そこで為替市場の予測を行なうことは可能なのか。

 

「地震予知と同じくらい難しい」と皆笑うが、現在、「PUCK(ポテンシャルーアンバランストーコンプレックスーキネティックス。動力的ポテンシャル)」モデルと呼ばれる独自モデルを構築、為替市場を科学的にとらえ、予測するモデルを開発中だ。市場価格の変動はランダムウオークで近似されることはすでに知られている。つまり次に価格が上がるのか、下がるのかは確率二分の一だが、実際には0.5より離れた値が出てきてしまう。つまり、過去の履歴に依存した力が存在するために、価格変動の特性が変わったといえる。PUCKモデルはこの勤力的な要素々を加えたものだ。

 

ユニークなのは、ディーラーの行動モデルと時系列の動きを組み合わせていることだ。まず、ディーラーモデルの前提は三点ある。ディーラーは安く買って高く売ることで利益を得ようとするが、ディーラー問には引力が働き、取引できるまで買い手は価格を上げ、売り手は価格を下げ、妥協して価格を決定する、ディーラーは直近の市場価格差に比例して予測する(順張りまたは逆張りのパラメーターを入れられる)、取引数が多いときには時間も速く、取引数が少ないときには時間は緩やかに流れる(時間のパラメーターが変わってくる)。

 

これに時系列のモデルが組み合わされる。わかりやすいように具体例で紹介しよう。チャートを見ていただきたい。これはリーマンショックの2008年9月15日近辺の円ドルレートを取ったもの。過去の市場価格から最適移動平均(期待価格)を算出し、市場価格と最適移動平均の差を横軸に、市場価格の次の時間の変化量を縦軸に取ってプロットしたものだ。数式は割愛するが、この意味するところは過去の市場価格が現在の価格にどれほど力がかかっているのか(ポテンシャル)を示している。

 

まず@のケース。これはまだリーマンーブラザーズの破綻前である。力の方向であるポテンシャルは下に凸の放物線形の関数になっている。たとえていえば、放物線一でボールを転がしている様子を想像していただきたい。これら周辺の価格には。引力"が働き、価格は放物線の中心に向かって動く。したがって変動するものの、安定しているといえる。

 

Bは急激に下落したあとの力のは上に凸になっている。ボールをこの関数に沿って転がせばころころと下に落ちるであろう。つまり、この状態は。斥力がかかり、不安定ということになる。Aはリーマンショックでドルが急落したところであり、三次関数のような形状を持ち、右側は下に、左側も下に流れ、下の方向性を持った不安定状態であることが見て取れる。

 

PUCKモデルで価格の力の方向を分析

このモデルで注目されるのは、同じようなボラティリティ(価格変動の絶対値)であっても、過去の最適移動平均に働く力が引力型か、斥力型かによって、過去の価格に引きつけられ安定しているか、過去の価格とは反発し不安定な動きをするのか分析できる点にある。すなわち、ある時点での価格に引力がかかっているか、斥力がかかっているかを分析することで、短期的な価格の方向性を予測できる。

 

不安定な状態では、価格の力が指数関数的に働いているかどうかを見ることによって、バブルや暴落といった臨界点を読み取ることができる。指数関数の増大で天井も予想できるし、谷も見て取れる。再び上のチャートを見ていただきたい。金融市場の大きな暴騰・暴落の直前には、Aのように、三次関数のような非線形項が加わり、さらに価格変動が加速される。

 

「従来のモデルはパラメーターが固定され、確率モデルも線形であったが、PUCKモデルのパラメーターは時々刻々変化し、非線形に対応できる」と高安氏は言う。PUCKモデルの目指すところは、コンピュータ上で仮想市場をつくり出し、シミュレーションを行なうことである。現実社会でバブルや暴落を実験することは不可能だが、仮想市場であれば可能だ。たとえば、パラメーターを少しずつ変えてシミュレー・ションを繰り返し、暴落を引き起こす条件、あるいは暴落が起こらなくなる条件を探れば、暴落を避けることができるかもしれない。

相場を撹乱させない擬切り方法にも期待

ディーラーの順張り、逆張り行動についても、仮想社会でさまざまな実験が行なわれている。

 

たとえば、仮想市場でも、順張りが多数を占めると市場は不安定化し、ポテンシャルが上に凸の斥力が働くこと、逆張りが主体の場合にはポテンシャルが下に凸の引力型になることが確認されている。また順張りが強過ぎて過去の価格
変動がさらに増幅され、暴騰や暴落を発生させることも実験で確認されている。

 

「市場を撹乱させない損切りの決め方や中央銀行の効果的な介入など、PUCKモデルは市場安定化策にも生かされそうだ」と高安氏は話す。経済物理学のアプローチは為替市場の分析にとどまらず、新たな安定策を生み出す可能性さえ秘めている。